FEATURE 連載:
夜景評論家 丸々もとおの
「秘境夜景」

夜景評論家 丸々もとお氏 プロフィール



第2回

今を超える力を与える空間、そして夜景。

ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ
(東京・竹芝)

ホテルニューオータニ

 夜景評論家として3年目を迎えた1995年9月に、この愛すべきホテルは開業した。インターネットが発展途上の時代、夜景に関する情報は出版物で入手するしかない状況だったが、国内で唯一の夜景ガイド本を断続的に出版していた私は、ちょうどホテルの夜景に大いなる興味を抱いていた頃だった。
 開業のタイミングも合い、こちらに何度となく訪れるようになっていた。いや、一週間以上も籠もり、次の著書を執筆していたほどだ。無論、印税のほとんどを使ってしまい窮屈になってしまったが、全く後悔は無かったことを覚えている。毎晩、レインボーブリッジを配された東京湾岸の夜景に出会える、自宅のように帰れる…。これほどの至福感は何にも変えがたかったからだ。そして20年の時を超え、東京湾岸の秘境というべきスイートルームに再び登頂した。ブルーモーメントとも、薄暮とも、マジックタイムとも呼ばれる、空と海が青々とした色彩で一体化する日没間近の時間帯に。

ホテルニューオータニ

 レインボーブリッジを見ていると、ふと思い出した。バスルームのバスタブにお湯をためると、光の反射でお湯が水色に見え、バスタブに浸かるだけで東京湾とつながったようなインフィニティ感が味わえるという事。23時を過ぎると竹芝桟橋を出航した船が眼前の夜景の中を遠ざかり、と同時に自らの意識も非日常へと誘われるという事。有名な風水師から「南にオレンジ色の埠頭の夜景を眺めると芸術的なセンスがアップする運気に恵まれる」と評された事。暖色を抱くジャンクションの夜景が見る者に高揚感をもたらす、元気にしてくれると色彩心理学の観点で語れるという事…云々。何度も体験した夜景だからこそ、次から次へと夜景の魅力がにじみ出てくる。噛みしめるほどに旨みが増す料理のように。

ホテルニューオータニ

 部屋はあの頃とは変わっていた。現在のスイートルームは多種類あり、こちらの部屋は「パリ メゾン」と称され、パリの邸宅をイメージした瀟洒な空間だ。生火は出ないが暖炉もある。シャンデリアや卓上の照明が柔らかな夜を伝え、一見冷ややかな湾岸の空気感を中和。暖色の色彩空間から眺める夜景は、青々さを増幅させ、副交感神経を刺激するようにリラックス感を高めてくれる。さらに深夜になるほど夜景に深みが創出されていく。零時を過ぎるとレインボーブリッジのライトアップが消え、その向こう側の大井埠頭のナトリウム灯が主張。曇天であれば赤々と燃えるような埠頭上空の空に生まれ、あたかもヨーロッパの夜の空港に降り立ち、目に入ってくる非日常の世界のようだ。時間を忘れる。時を超える。空間も超える。国も超える。

ホテルニューオータニ

 振り返ると、バスタブの向こうにパリがあった。こちらのお部屋はビューバスではないが、写真のようにドアを開ければ、ベッドルーム越しに夜景も拝める。ベッドカバーの装飾や調度品もパリ仕様ゆえバスルームとの一体感があり、ドアを開け放っておくことに違和感がない。寛ぐたびに、ここではないどこかに意識が誘われてきた。夜景と空間が調和することで生まれる特有のトリップ感だ。
 秘境とは、「外部の人が足を踏み入れたことがほとんどなく、一般的に知られていない地域」と辞書には書かれていたが、現代人の秘境とは、自らが足を踏み入れたことのない“今を超える力を与えてくれる空間”なのかもしれない。このスイートルームでは、変貌する湾岸の夜景に身を委ねることで過去へも未来にも行ける。コンセプトの明確な室内で日本も脱出できる。深夜の夜景がヨーロッパのどこかへと意識を連れ去ってくれる。
 さて、あなたにどのような力をも与えてくれるのだろうか。秘境に登頂し、自らとじっくり向き合って欲しい。そして、新しい自分にようこそ。

撮影:夜景フォトグラファー 丸田あつし

■ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ
〒105-8576 東京都港区海岸1丁目16-2
TEL. 03-5404-2222
新交通ゆりかもめ 竹芝駅直結
デザイナーズスイート&ルームは全4タイプ。木の温かみが落ち着いたリゾート感を演出する「ラグジュアリー オリエンタル」、パリの高級レジデンスをイメージした「パリ メゾン」、白とベージュを基調とした優しい空間の「ラ・カーサ」、マンハッタンのペントハウスをイメージした「ニューヨーク ラグジュアリー」と個性豊か。詳細・料金はホテルHPを参考。
公式サイト:ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ(外部サイト)

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